地域をコーディネーションする魅力を多くの人に伝えたい

  • 2020年11月4日
  • 2020年12月2日
  • JO対談

社会福祉法人若竹大寿会 横浜市六角橋地域ケアプラザ
地域活動交流コーディネーター 原島 隆行さん


江森:2016年から横浜市神奈川区の六角橋地区で始まった認知症の啓発を目的とした「オレンジプロジェクト」は、神奈川区独自の「見守り協力店」制度の創設につながるなど、大きな広がりを見せています。当社も第1回から協力・参加させていただいていますが、原島さんはまさにその仕掛人。どうしてこのような活動を始めたのですか。

原島:この場所は「地域ケアプラザ」といって、介護保険法によって位置付けられている地域包括支援センターに、福祉保健活動の拠点としての機能をプラスした横浜市独自の施設で、指定管理者制度のもと運営されています。私はその中の「地域活動交流コーディネーター」という、これまた横浜市の条例で定められている担当地域に住む0歳から百歳までの人たちを幅広くサポートするという仕事をしています。

江森:0歳から百歳までですか。それはまた活動の範囲が途方も無いですね。

原島:私が来たときはここができて3年目だったんですけど、何の施設なのわからないという方も多く、とにかく知っていただくことからのスタートでした。六角橋という地域は六角橋商店街と神奈川大学があって、横浜の中でもリソースが豊富な場所なので、それらをつなげるというのが目標でしたが、何しろ知っている人がいないので、最初の頃は学生が集まりそうなところに、Tシャツ短パンでふらっと出かけていって、おもしろそうな活動している学生を見つけては声をかけるというようなことをやっていましたね。

江森:あやしい〜(笑)。でも学生を知るにはそれが一番。

原島:そうなんです。それでわかったのが、地域住民と学生の接点が少ないということだったんです。接点が少ないことで、学生に対する困りごとが大学を通じて学生に届けられることはあっても、地域から学生への感謝や好意的な意見は伝わりにくい。実際に「若い世代がたくさんいるお陰で防犯上もいい」「学生が日中もたくさん歩いていて町に活気が出る」などの意見もたくさん聞こえてきたんです。だけどそういう意見を交換する場がないんですね。じゃあ一回集まってみましょうかということで、集まったところから生まれたのが「まち×学生プロジェクト」だったんです。

江森:なるほど〜、それで「まち×学生プロジェクト」をベースに認知症啓発に取り組んだのが「オレンジプロジェクト」ってわけですね。やっとつながりました(笑)。
 原島さんがまちづくりにとても熱い思いを持っていることはわかりましたが、どういう経緯でこの仕事に?

原島:大学を卒業していまの社会福祉法人に入社して、3年間介護施設で介護の仕事をしていたのですが、人事異動で7年前に六角橋地域ケアプラザに配属されて地域活動交流コーディネーターになりました。

江森:子供の頃から福祉の仕事をしようと思っていたのですか。

原島:いや全然そんなんじゃなくて、僕たちが学生の頃は就職が厳しい時期で、何か手に職つけた方がいいだろうということで経済とかでなく、社会福祉の方面に進みました。物心つく頃にはバブル崩壊もあり、そういう星の下に生まれているのかもしれないです(笑)。で、勉強してみたら全然勉強に身が入らなくて、すぐに就職するのに迷いがあって1年間バックパッカーやったんです。ちょうど東日本大震災のときだったんですけど、アメリカを旅していて、地下鉄に乗っていたら募金箱のようなものを持って乗客を一人ずつまわっている人がいて、そのときはその人が何をしているかわからなくて、他の人も結構払ってるし僕も払わなきゃいけないんだと思ってお金を出したんですね。そうしたら相手の人が珍しがって話しかけて来て、「お前何人だ?」って訊くから「日本人」と答えたら、「いま日本は大変じゃないか。そんなときに俺に恵んでくれるのか。お前の方が大変だからこれ全部やる」といって彼が集めたお金を全部くれたんです!周りの人にまで「みんなで助けようぜ」と声をかけて結構たくさんお金をもらっちゃうという経験をしました。そのとき自分の中で何かが変わったというか、ああ福祉とか助け合いというのは大切なんだなと思えるようになって、次の年に社会福祉法人に就職しました。

江森:そうでしたか。福祉業界の方には答えにくい質問かもしれませんが、私は現在の介護保険制度には大いに問題があると思っています。たとえば利用者にとって不要で不満足なサービスだったとしても、保険が適用されて個人負担が少額だからなんとなく惰性で消費してしまうということが起こります。施設側も利用者のニーズに応えるべく努力や工夫をしなくなる。その結果サービスの質の低下と、画一化が起き、ひいては生産性の低下を引き起こします。なんでもかんでも介護保険でやろうとすることに問題があるのではないか、民間でできることは民間でやるべきなのではないかと思います。地域活動交流コーディネーターとしてもいろいろと言いたいことがあるのではないかと思いますが、現場の感覚としてはどうですか。

原島:本当に答えにくい質問ですね(笑)。でもたぶんその壁には内部でもぶつかっているところだと思います。
 昨年協進印刷さんにもご協力いただいた「地域カフェMAP」も、私の立場からすると地域カフェを運営している皆さんの活動を応援したい、地域活動に関心をもってくださる方を増やしたい、との思いから制作したものですが、一方では介護保険サービスではないところで、地域の高齢者が気軽に利用できる場を紹介するという役割も担っていると感じています。まちの中で、高齢者ご本人がご自身の意向で選択できる居場所の選択肢が少ないということは、江森さんがおっしゃるように大きな課題だと思います。

江森:こういう大きな制度があるとどうしても制度からものを見てしまいますからね。本来ケアの対象となる人がどういうニーズを持っているのか、人を中心に考えていくことが大事なんだと思いますね。

原島:最近は財源自体が厳しくなってきているので、必ずしも介護保険ありきではなくなってきていて、今後地域の負担が増えてくることが予想されています。そういう中で高齢者の見守りができるまちを作っていくには、やはり企業の支えなくしては成り立たないと思います。

江森:そうやって役所の人も言うんだけど、こちらからしてみると全然情報が出てこないから手の出しようがないんだよね。今まで消費者だった人たちが主体的に消費ができなくなったときに、全部介護保険で丸抱えしちゃうから、企業や商店から高齢者が見えなくなってしまう。それじゃ新しいビジネスも生まれようがないし、やろうと思ったら自分も介護保険の世界に入らなきゃできないというのはフェアじゃないよね。壁はあってもいいから、せめて透明にしろと言いたい。

原島:そこは課題ですね。公助から共助へと福祉も変革がなされている中、従来のやり方や価値観にとらわれず、福祉の分野でもまちづくりでも地元企業など民間の力と組むことが今後一層必要になると感じています。そういう意味でも、多様な主体(団体)が従来からある壁を乗り越え、連携して取り組むことが〝当たり前〟の世の中になってほしいですね。

江森:その点では「まち×学生」は見事に壁を壊しましたが、なんでうまくいったと思いますか。

原島:う〜ん、いろいろな条件がたまたま揃って、恵まれてたということに尽きると思いますが、最後は「あの人の話なら聞くよ」という〝人のつながり〟が地域を動かす原動力になったと思います。それと立場の違う人たちをうまくコーディネーションできたということもあると思います。伝統を守って継続性を大切にする地域と、大学時代の一瞬を全力で燃えたいという学生とは時間軸にずれがありますので、両者の利害を平坦にならす役割が必要で、そこを地域交流コーディネーターという立場でできたことは大きかったかなと思います。

江森:企業と行政や、企業と学校などでもそうだけど、異なるセクター間の連携の場合、間に入ってくれる調整役は必ず必要になりますね。

原島:単なるポジションではなく、機能しているということが大事ですね。でもコーディネーターは黒子なので、最終的に世に出るときに存在が見えないんですよ。主体となった団体がクローズアップされるので、それだけを真似して失敗するケースは多いと思います。また社会的に認められていないので職業にするのも難しく、なかなか数が増えないというジレンマがあります。

江森:それには原島さんの活動を世間に知らせていく必要がありますね。名前だけのコーディネーターではなく、本当にコーディネーションできる人をどれだけ作れるかということが、地域が豊かになるかどうかの決め手になりそうですね。

原島:本当にその通りですね。町内会と関わっていて、担い手の高齢化とともに今後町内会活動も難しくなってくると感じるところもありますので、町内会×企業のような新しいノウハウを作っていくとともに、地域コーディネーションの魅力を多くの人に伝えていきたいです。

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