情報のレイヤーを重ね合わせれば地域の魅力が見えてくる

  • 2019年7月26日
  • 2020年12月9日
  • JO対談

折込広告文化研究所 代表 鍋島裕俊さん

江森:鍋島さんは折込広告に長年携わっておられますが、海外にも新聞の宅配や折込広告があるというのは私も知ってはいるのですが、これほどまでに新聞の宅配システムが整備されているのは世界でも日本が一番ではないかと思います。これほど新聞の宅配が普及したのはなぜなのでしょうか。

鍋島:そもそも新聞は、明治時代に当時の論客たちが自分たちの主張を広めるために発行したのが始まりで、今では全国紙もあるが、当時は全国各地に特色のあるたくさんの新聞があった。新聞が庶民に本格的に普及するのは明治後半、日露戦争のときに初めて従軍記者が登場したときからだ。戦地に行っている親類のことを気にして、みんなが買ったわけだ。日本の場合は、この時期に一気に新聞の購読率が上がり、また新聞販売の仕組みも整えられていった。当時すでに「売捌店」という、今でいうところの新聞販売店が登場しているんだ。

江森:宅配の仕組みはかなり古くから整えられていたのですね。折込広告はいつ頃登場するのでしょうか。

鍋島:折込広告が初めて登場するのは明治の後半ぐらいだが、最初は新聞社が正月にカレンダーなどを「付録」としてつけて、それを通常の新聞に折り込んでいたんだ。それを見た劇場や百貨店からウチの店のも出してもらえないかという依頼が来て、徐々に他の企業にも広まっていった。さらにそれを売捌店の収益事業にすることによって、エリアごとに広告を入れることが可能になったわけだな。大正11年には日本で初めての折込広告代理店が誕生している。

江森:大正11年ということは、すでに百年近い歴史があるということですね。海外だと新聞は街角のスタンドで買うというイメージがありますが、海外の宅配はどういう仕組みになっているのでしょうか。

鍋島:アメリカの場合は、販売店という制度はなくて、読者と新聞社が直接契約して、運送会社が届けるという仕組みになっている。従って折込広告は新聞の工場で印刷と同時に入れていて、ラインで入れるので一度に十数種類までという制限がある。指定できる広告エリアもせいぜい「市」単位で、日本のように細かく分けることはできないな。日本と同じように販売店で広告を入れるのは韓国。でも韓国は紙の新聞の普及率がもはや2割を切っているので、市場としてはそれほど大きくない。

江森:日本での紙の新聞の普及率はどのぐらいですか。

鍋島:世帯あたりの一般紙の発行部数で見ると、ピークは2001年で99%、現在は65%ぐらい。購読者層は50代以上で、この人たちは新聞を読むことが習慣化している。40代以下はネットだな。折込広告のピークは2006年で、紙の新聞の減少とともに縮小してきていて、広告の内容もターゲットを考えると当然シニア向けのものが多くなってきているな。

江森:新聞販売店は今後どのようになっていくのでしょうか。

鍋島:販売店は統合されていくことになるが、一番いいのは「合配」になっていくこと。「合配」というのは、ひとつの販売店で読売も朝日もすべての新聞を扱う店のこと。販売店の経営にとってはいいことだが、それぞれの新聞社が販売店を系列化してシェア争いをしてきた歴史があるから、合配店になっていくのは簡単なようでいて、なかなか難しい面もある。

江森:でも部数がどんどん減っていけば、配達エリアは広くなるし、採算的には難しくなっていきますよね。

鍋島:なるなる。だから、販売店はただ新聞を配るだけじゃなく、そこに新聞販売店があることの「意味」を考えていかなければならない。そういう意味では、読売の奈良県生駒の販売店の店主だった青木慶哉氏が立ち上げた「MIKAWAYA21」というのはおもしろい。彼は新聞販売店がここにあることの意味を考えたときに、それはこれから増えていく高齢者のサポートをすることと考え、30分500円でなんでもやるというサービスを始めた。掃除もやるし、電球も変えるし、買い物にも行くし、なんでもやりますというサービス。新聞業界自体が斜陽化していく中で、彼は系列の垣根を超えてこれを推進していくべきと考えて、いまはこの事業を全国展開しながら、新聞販売店のコンサルもやっている。

江森:お年寄りの見守りは、警察と販売店が連携して全国で展開していて、新聞が3日分ぐらい溜まっているからと家の中を覗いてみたら、おばあちゃんが動けなくなっているのを発見したとか、そういう成功事例を聞きますが、それが次のビジネスにどうつながるのかと考えるとなかなか難しい。

鍋島:外国人が日本に来ると、日本の新聞がこんなに安くて、しかも毎日必ず届けてくれるということに驚くものだ。それぐらい日本の新聞、特に販売店網には価値がある。でも日本の販売店はそれが当たり前だと思っているから、自分たちのやっていることに価値があると気づかないんだな。

江森:紙の新聞の減少が避けられないとなれば、販売店としては他のものを配るしかないと思いますが、これからはどうなっていくと思いますか。

鍋島:さっき、昔はたくさんあった新聞が政府の新聞統制で減ってしまったという歴史を話したが、本来はそれぞれの地域にそれぞれのメディアがあってしかるべきだと思う。一県一紙で地域の情報をカバーするというのはちょっと無理があるな。商店街の活性化というのは、商店街にどんな人がいるのかを知るところから始まるわけで、そういうことを伝えていく地域メディアに新聞販売店が関わっていくというのもひとつの方向性だろうな。

江森:新聞販売店が関わった地域メディアの事例はありますか。

鍋島:販売店が独自でお知らせ的なものを作って新聞に折り込んでいる例はあるが、編集とかデザインとかいうことになるとまだまだだな。だからそういうところのプロデュースを、本来は折込会社がやるべきだろと俺はさかんに言っているんだ。

江森:確かに地域メディアをやっている人はたくさんいますが、それが新聞販売店とくっついたという話はあまり聞いたことがないですね。

鍋島:そうなんだ。それはまた別の次元で考えちゃってる。そうではなくて、地域の中で、どんなレイヤーにどんな情報があるのか、それをお互いに出し合って、重ねていくことによって、地域の魅力が引き出されるんだと言ってるんだよ。

江森:大口通商店街で「まちゼミ」という取り組みをやっていますが、主宰している松井洋一郎さんはご存知ですか。

鍋島:おお、知ってる知ってる。あれはすごいよ。商店街を活性化するのは結局商店なんだよ。そして店主はある意味専門職であって、特化した何かを持ってるだろ。その持っているものを引き出して見せていくのが「まちゼミ」。最初は1人、2人でもいいから、突出した店主を作れば、そこに人が集まって来る。そうやってみんなを引っ張ってくれる人が出ればいいんだよ。商店街はとかく「福引」とか一過性のイベントをやりたがるけど、それじゃ意味ないよな。

江森:でも商店街のみなさんはそういうのに馴染みがあるみたいですね(笑)。大口もまだまだ課題が多いです。

鍋島:最近総務省も言い始めてる「関係人口」というのがあるけど、意味もわからずにただ観光に来る人を増やすよりも、その地域に関心のある人、関わりのある人を増やした方が、最終的には地域のためになるという考え方だ。関係人口を増やすには地域を知ってもらわなければならない。地域を知ってもらうには地域がブランディングされていなければならない。それができていない状態でいろいろなことをやっても結局は無意味なんだよ。

江森:その通りだと思います。そこにはブランディングも含め、地域の情報をとりまとめたり、人と人をつないでいくための、商店街のおやじさんたち以外の人や組織が、どうしても必要ですよね。

鍋島:それは情報加工が得意な印刷会社がやればいいじゃないか。

江森:そうでした(笑)。まさに『印刷道』でいうところの「地域活性プロモーター」の仕事ですね。最後に鍋島さんが研究されている地域メディアでおもしろいやつを一つ紹介してください。

鍋島:一つ?一つと言わず、二つでも三つでも(笑)。大阪に月刊『島民』というのがある。これは大阪の中之島に関係することだけを扱うメディアで、フリーペーパーなんだけど、結構続いてるんだよ。あとは京都の『ハンケイ500m』。京都のある地点、例えば堀川丸太町から半径500mを扱うんだけど、その地点が毎回変わる。あと、北九州の『雲のうえ』。これは市が全面的にバックアップしてる。それと…

鍋島さんが集めた個性的な「地域メディア」の数々。
まだまだたくさんあります。

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