未来のために「今」自分たちにできることを

  • 2017年10月20日
  • 2020年12月11日
  • JO対談

株式会社スリーハイ 代表取締役 男澤 誠さん

江森:スリーハイさんは横浜型地域貢献企業の中でもかなりラジカルにCSRを進めておられると予々感じてはいたのですが、ついにと言いますか、この度一般社団法人を設立され、そしてまたこんなに素敵なスペースをオープンされるなど、ますます突き抜けてるなあ(笑)と感心しています。

男澤:周りから見るとそういうふうに見えるのかもしれませんが、僕たちにとってはとても自然なことなのです。元々スリーハイが地元の小学校と連携して始めた工場見学が、年々規模が大きくなっていって、今では3年生全員が社会科見学でこの東山田工業地域を練り歩く「まち探検」という事業に発展しています。そうなると周囲の工場にも協力してもらわないと成り立たないですし、実際多くの企業さんが協力してくれています。ところが、僕たちが始めたものだから、メディアの取材を受けて名前が出るのはいつも「スリーハイ」なんです。みんなでやっているのにそれはどうなんだろうという思いがずっとありました。それならば別の組織を作ってみんなでこの東山田という地域を面的活性するような形にした方がいいだろうと判断したのです。

江森:男澤さんがやっていることはいわゆる「地域で子供を育てる」ということで、それが良いことであり、必要なことだというのは「総論」としては誰もが理解できると思うのですが、それを「自分の会社でやる」となると、それがどうもつながらないというか、「なんでウチが?」とか「いやいや、それどころじゃないよ」となるのが常ですよね。周囲の企業さんをどうやって説得しているのですか?

男澤:いま日本の製造業の技術はどんどん国外に流出してしまって右肩下がりですよね。でも僕は「日本のウリは製造業」だと思っているし、もう一度そういう元気な製造業を取り戻したいんですよ。それには今の子供たちに早い段階から日本の技術や製造現場を見てもらって興味をもってもらうのが、時間はかかるかもしれないけど、一番いい方法なんじゃないかと思うんです。余裕があるからでも、ヒマだからでもなく、たまたま僕はそれに気づいたからやり始めているので、あなたも一緒にやりませんか。と誘うと少し自分事になってくるというか、考えてくれるようにはなりますね。

江森:私も一応製造業のはしくれですが、日本の製造業ってもっと危機感あるのかと思ってましたが、東山田はそうでもなさそうですね。

男澤:いわゆる製造業の集積地域って、東京の大田区みたいにみんなで仕事をまわしてるみたいなのを想像されると思うのですが、東山田はまったく逆で、それぞれがお客さんをしっかりもって個別にやっているので、皆さんそれなりに危機感はあるのかもしれませんが、それを共有する基盤がないというか、そもそも他の会社のことをあまり気にしないんですよね。でも、日本全体でみたときには、もうちょっと未来に対して危機感を持っている社長が多くてもいいんじゃないかなとは思いますね。

江森:今年の大学新卒者が120万人ぐらいで、10歳の子たちが100万人ぐらいなので、これから10年ぐらいで2割ほど減ることになります。中小企業にとってはますます人材難が深刻化しますよね。

男澤:オリンピックのメダリストのインタビューなどで、なんでアスリートを目指したのかというような質問に、よく「子供の頃の経験が」という話がでてくるんですよ。やはり子供の頃の経験とか記憶って、人生に大きな影響を与えますよね。僕には2人子供がいるのですが、仕事の話をするととても興味をもってくれます。やっぱり子供って、特に男の子は工作とか実験とか、ものづくりにつながることが好きじゃないですか。そういう経験を子供の頃にたくさんしてもらうことによって、製造業に対する考え方も変わってくるんじゃないかと思います。でもそれには「今」やらないと。今始めても結果が出るのは10年ぐらい後ですから。確かに東山田なんて横浜市全体からみたら小さなエリアでしかありませんけど、でも自分たちでできることは、自分たちでやろうよ!と熱く語っています。

江森:横浜市の小学校は全国から見学に来るぐらいキャリア教育も含めた、いわゆるアクティブラーニングのレベルは高いんです。でもそれが中学にいくと受験対策が始まるので、ややアクティブラーニング的な要素が減り、高校にいったら完全に大学進学が目的化してしまいキャリア教育の機会はほとんどなくなってしまいますよね。

男澤:そういう意味ではこの地区は特殊かもしれません。東山田中学校区の小中学校はキャリア教育にすごく熱心なんですよ。小学校で「まち探検」、中学校で「職業体験」という9年間のプログラムができあがっているんですね。そういう学校の熱心さにこちらが乗っかってる面もありますね。

江森:学校との連携はどうやって始まったのですか?

男澤:2010年に横浜型地域貢献企業に認定されたのですが、認定されたからには何かしないとまずいなと思いながらも、何をして良いのかわからず、山下公園の清掃にいったり、全然関係ない地域でボランティアしたりしてたんです。今思えば何やってんだって話なんですけど、その当時は本当に何していいかわからず、でもマークをもらっていながら何もしていないというのは恥ずかしいことだなと思って、東山田中学校のコミュニティハウスを訪ねたのが最初です。

江森:え?ということは認定がきっかけということ?

男澤:そうですよー!あの制度がなかったらたぶん何もやってないです。あれは僕の中で何かが変わったきっかけでしたね。

江森:いや〜、それはうれしいなあ。そういう人がいるというだけで、今までの苦労が報われる思いがしますよ(笑)。すみません話を元に戻しましょう。

男澤:とにかく何もわからないまま東山田中学校のコミュニティハウスを訪ねて「この地域でできることありませんか」と相談したのです。そうしたら当時PTAの副会長としてベルマークの活動をされていた蟹江さんを紹介されたので、ベルマークの活動に協力するなど、まずはお互いできるところから始めていきました。そうやって活動しているうちに、蟹江さんは当社のパート社員に、さらには正社員になり、一般社団にも関わってもらい、同時に地域コーディネーターでもあるので、地域とスリーハイをつなぐ重要な役目を担ってくれるようになりました。よく「どうやったらそんなにうまくいくの?」という質問をされますが、蟹江さんのような存在があったことは大きな要因だと思います。

江森:学校の方の反応はどうだったんですか?

男澤:なんか最初はすごい疑われたという話を後で聞いて、心外だなあと思いましたよ(笑)。

蟹江:校長先生が心配されて「何が目的だと思う?」と相談されたりはしましたね(笑)

江森:学校ってそういうものですよね。企業は金儲けのことしか考えていないと思ってるふしがあります(笑)。

男澤:それがきっかけで蟹江さん以外の地域コーディネーターの方とも知り合うことができて、地域のことや学校のことなどをいろいろ教えていただくことができました。そうするとこちらも地域に対して感謝の気持ちが生まれてきて、ますます何か恩返しがしたいという気持ちになる。そしてその活動に対して地域の方がまた感謝を返してくれるという、いい循環ができています。CSRってこういうことなんじゃないかと思い始めています。

江森:このスペースも工業地域には似合わない(?)、とても素敵な空間ですけど、これはどういう目的でオープンしたのですか。

男澤:この地域は準工業地域といって、完全な工場地帯ではなく、工場と住宅が隣接している地域なんです。周辺に住んでいる人たちは比較的新しい住民が多くて、港北ニュータウンに憧れて引っ越してきたら隣は工場だった!という人たち。一方、工場の方は「後から来といて文句言うなよ」と思っているので、企業と住民のコミュニケーションがうまくとれているとはいえない状況です。だからもっと企業と住民が顔の見える関係をつくらなきゃいけないと以前から思ってはいたのです。でも1年ぐらい前から、逆にこの地域おもしろいなと思い始めまして、このおもしろさを街の魅力としてもっと発信できないかと思って作ったのがこの〈DEN〉なんです。

江森:なんか、隣で作業している人がいて、さっきから気になっているのですが…。

男澤:この人たちはスリーハイの社員で、いま当社の製品であるヒーターを作っています。〈DEN〉は「ものづくりカフェ」をコンセプトにしていて、ものづくりを見ながらお茶をしたり、実際に自分がものづくりをしたりすることができます。運営は一般社団ですが、スリーハイとしても「見せる工場」として、打ち合わせやショールーム的な用途として活用しています。

江森:場と組織ができて、これからますます楽しみですね。

男澤:今の自分を動かしているのは、未来に対する危機感です。それを行政にどうしろこうしろと言っても始まらない。自分たちでやった方が早いし、成果もあがります。せっかくこの世に生を受けて生きてきた以上、何かひとつでも爪跡のようなものを残せるように、これからも活動していきます。

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