障害のある方が、安心して、やりがいを持って働ける社会に

  • 2018年4月25日
  • 2020年12月11日
  • JO対談

元 横浜市健康福祉局障害企画課就労支援係長 江原 顕さん

江森:この4月から精神障害者が法定雇用率に加えられ、同時に法定雇用率そのものも民間企業では2・2%に引き上げられました。このことで何か変化は見られますか。

江原:たしかに法制度上は、この4月から精神障害の方を法定雇用率に入れることになったのですが、これまでも精神障害の方を実雇用率に入れても良いことにはなっていたので、すでに企業での雇用は進んでいました。むしろ最近では精神障害の方を積極的に雇用しようという動きになってきています。

江森:精神障害の方は受け入れやすいということでしょうか。

江原:法定雇用率が徐々に引き上げられている中で、身体障害や知的障害の方で、企業で働くことへの適性の高い方はすでに就職してしまっているという現状があります。もっとも知的障害の方は毎年特別支援学校等を卒業するので、求職者は出るのですが、ほとんどは学校にいるときにすでに就職先が決まってしまいます。

江森:なるほど、いま企業にとっては精神障害者が狙い目ということですね。

江原:もうひとつの背景としては、就労支援事業所の数がここ数年でとても増えているということがあります。従来は障害者支援といえば社会福祉法人やNPOが担うのが通例であったわけですが、いまは株式会社などの企業が就労移行支援事業所の運営に乗り出していて、これまでとは違って通常のオフィスを模したような環境の中で、パソコンを使った作業や、上司への報連相などを実際の仕事さながらにトレーニングしています。そのような環境の変化も精神障害の方の就労を後押ししていると思いますね。

江森:確かにここ数年に急に増えたなあという印象がありますね。

江原:現在市内で六十数箇所開設されていますが、年々増えていますね。

江森:弊社でもある就労移行支援事業所からインターンを頼まれて、実習生を受け入れたことがあります。

江原:就労移行支援事業所は原則として2年間が通所できる上限ですので、事業所としてもいろいろ工夫してなんとか就職させようと努力しているようです。

江森:先ほど、就職への適性の高い方はほとんど就職してしまっているという話がありましたが、それにしては法定雇用率を達成している企業の割合が48・8%と半分以下となっています。人がいないのに達成率が半分という矛盾はどこから来るのでしょうか。

江原:法定雇用率を達成しているのはほとんどが大企業なのです。ところが企業の数でいえば圧倒的に中小企業が多いわけですから、企業数の達成率で表してしまうと低い数字になってしまいますね。またすべての障害者が企業で就労できる適性があるというわけではありませんので、福祉的就労や他の方法をとる場合も少なからずあります。ただ最近では障害者雇用に対する企業側のハードルが少しずつ下がってきていますので、そういう意味では企業で働ける障害者の数も少しずつ増えていくのではないかと思います。もっとも障害者側のハードルが下がるということは、企業の負担が増えるということでもあり、そのあたりはなかなか難しい問題がありますね。

江森:話題を変えて江原さんご自身のお話を伺いたいと思います。15年前に障害福祉部に異動されたということですが、それ以前から障害者の就労には関心があったのですか。

江原:もともと福祉には興味があったのですが、障害者福祉を進めていくにあたっては就労の問題に対して、もっと新しいアプローチをしていくべきという問題意識があって異動してきました。当時提案した中で今でも残っている事業としては、市役所での知的障害者の雇用があります。当時市役所としては知的障害者の雇用はゼロでしたが、現在では20名ほどが職員として働いています。最初はなかなか理解が得られなかったのですが、雇用が無理なら実習からやってみようということで、いろいろな部署で実習をしてもらって、それから雇用につなげていくということをやりました。

江森:最近神奈川県でも、まず役所が雇用して、そこから民間企業に送り出すという事業を始めましたよね。これはとても良いスキームだと思っています。

江原:地方自治体も民間企業より高い法定雇用率を課せられていますので、送り出すだけではなく自らも雇用しなければならないので、企業さんに大きな顔している場合じゃないんですよ(笑)。

江森:弊社でも1年ぐらい前から障害者雇用に挑戦しようと、障害企画課の皆さんのご協力もいただきながら動いているのですが、なかなか良いご縁に巡り合うことができず、難しさを感じているところです。特に中小企業ということになると思いますが、障害者雇用を軌道に乗せるにはどんなことが必要だと思いますか。

江原:先ほどから法定雇用率の話をしてきましたが、一方で法定雇用率の達成が目的化してしまうというか、法定雇用率を達成するために雇用するというのは、私はちょっと違うのではないかと考えています。これは私が福祉行政にいるからかもしれませんが、障害のある方が安心して、やりがいをもって働けるということが大事なので、それは何も企業への就労ということでなく、福祉的就労など別の形でも、本人がそれを望むのであればそれでもいいと思っています。ですから何が何でも法定雇用率を達成させるということに固執するのではなく、雇用が難しいのであれば、障害者施設に仕事を頼むとか、地域で一緒に活動をするとか、そういうことでも良いのです。また法定雇用率にカウントされるためには、週20時間以上の就労が必要なのですが、もっと短い時間で企業さんも助かって、障害者の方もやりがいをもって働けるのではあれば、短時間でもまったく構わないと思います。どんな方法であれ、障害をもった方が働ける何らかの機会を提供していただけるのであれば、それで十分だと思っています。

江森:企業にしてみると「障害者雇用」などと大上段から言われると構えてしまうところがありますが、今のお話のような情報提供をたくさんしていただけると、もっと気軽に、もっと身近に障害のある方の就労に関われる機会が増えると思いますね。

江原:企業さんが障害者雇用で関わるのはハローワークなど労働行政機関が多いと思いますが、彼らからしてみるとどうしてもゴールは「雇用」ということになるので、いたしかたないところはありますね。そういう意味では横浜型地域貢献企業の皆さんが、事例の共有などを通して発信していただくのも良いと思います。そもそも企業の地域貢献が本業とずれてしまっては元も子もないですよね。せっかく障害者雇用したのにやってもらう仕事がないなんていうのは本末転倒であって、あくまでも本業に役立つための障害者雇用でなければおかしいと思っています。

江森:その最たるものだと思いますが、障害者の従業員を出向させて、そういう人だけを集めて仕事をさせる事業所ができていると聞いています。それはまさに数字を追いかけた末路であって、働くことの喜びとか、仲間とひとつのことを成し遂げる達成感とか、労働によって得られる価値の多くを障害者から奪うことになるのではないかと危惧しています。

江原:私たちが行政として介入できることではないのですが、私はその出向先でたとえば人間関係のトラブルがあったりした場合に、元の雇用している企業がきちんと雇用主としての責任をもって対処できるのか、という点において非常に懸念をもっています。

江森:私も以前に障害のある方をお預かりして、うまく対応ができずにお断りせざるを得なくなってしまい、私としては本人をとても傷つけてしまったと反省したことがありました。それまでは私も障害者に対して少なからず偏見を持っていたと思いますが、そうやって触れ合ってみてわかったのは「なんだ普通じゃん」ということなんです。障害者も健常者と同じように感じたり考えたりする「普通の人」だとわかっていれば、邪魔者扱いして別の場所に押し込めるような発想は出てこないのではないかと思うのですが。

江原:それは結局地域で障害のある方とない方が普通に混ざり合っていないということの表れだと思います。本来であれば、元から障害のある方のことを知っていて、それを知った上で雇用するというのがあるべき形だと思いますが、いざ就職という段階になってはじめて一緒になるというのは、企業にとっても本人にとっても戸惑うのは当然ですよね。

江森:そういう意味では、現在の学校教育のあり方にも問題があるのかもしれませんね。私たちが子供の頃より明らかに「分ける」ことが当然のことのようになっている気がします。

 ところで、就労支援事業所の費用をはじめ、障害者福祉に係る費用はほとんど税金で賄われているわけですが、このままではいつか限界がきますよね。

江原:そうですね、だからこそ就労というのはひとつの大きな解決策のひとつになります。また現在は「社会保障費」や「雇用率」という文脈でしか計ることができないのですが、本来障害のある方の就労というものが、社会全体にどんなプラスをもたらすのかというもっと大きな視点で見ることが必要で、そのあたりも今後の課題だと思います。

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