子どもにはすごい力があるそれを認め、引き出したい。

  • 2017年4月20日
  • 2020年12月18日
  • JO対談

認定NPO法人エンパワメントかながわ 理事長 阿部真紀さん

江森:阿部さんは私たちの生活の中で起きる様々な「暴力」に向き合い、CAPプログラムなどを通じて「暴力のない社会」を目指して活動されていますが、この活動はいつから始められたのですか。

阿部:日本でCAPが始まったのは1995年ですが、私自身は1999年にCAPスペシャリストという、CAPプログラムを実践できる資格を取得しました。その頃は7年間の海外生活を終えて帰国し、ちょうど下の子が小学校に入るときだったので、何かやりたいなと思って見つけたのがCAPだったということです。こういう活動をしている方の中には壮絶な経験をされている方も多いのですが、私の場合は特にこれといった理由もなく、たまたまCAPに出会ったというのが始めたきっかけです。

江森:当時の「子どもへの暴力」をめぐる社会の認識はどのようなものだったのですか。

阿部:CAP自体の知名度が低かったということもありますが、学校には入れてもらえませんでしたね。放課後に希望者を集めて実施するというようなことをしていました。当時は「学校の授業に入れてもらう」ことが目標でした。その後、大阪で「池田小事件」が起きて、関西ではそれはもう大変だったようですが、全国的にも「子どもたちをどうやって守るのか?」というような議論が起きて、川崎市や鎌倉市の教育委員会が市内の小学校でCAPを授業に導入してくださって、一気に広がっていきました。

江森:現在エンパワメントかながわでは、CAP以外にも様々なプログラムを展開していますね。

阿部:CAPというプログラムは世界中で展開されていますので、実施する上での制約も厳しいですし、だからこそどこで受けても同じものが受けられるというメリットもあるのですが、CAPではカバーできないこともあるのです。それならばということで、当時活動していたCAPの団体から独立して〈エンパワメントかながわ〉を設立しました。それが2004年です。それ以来現在までに約7千4百回の様々なプログラムを25万人の子どもたちに提供してきました。

江森:みなさんが独自に開発したプログラムもあるのですか。

阿部:最初に作ったのは「デートDV」に関するものです。「デートDV」という言葉自体、日本では2003年の10月に生まれた言葉ですが、デートDVを放置しておけば、やがて虐待につながっていきますので、前段階で予防しておこうという考え方です。

 次に開発したのは「すきっぷ」という小学校低学年向けの護身プログラム。小学校1年生はランドセルに黄色いカバーをつけますよね。あれは交通安全という意味ではとても良いのですが、「防犯」という観点から見ると「私は1年生です」と言って歩いているようなものです。だから自分の身を守る方法を教えることが必要だと感じたメンバーが開発したものです。そうやってどんどんプログラムが増えていきました(笑)。

江森:これまでエンパワメントかながわとして13年間活動してきて、どんなことを感じていますか。

阿部:CAPをやっていてすごく感じるのが〝子どもの力〟です。たぶん今の私の仕事は出会ってきた子どもの力を大人に伝えることではないかなと思っていますね。「子どもってこんなにたくさんの力を持っているんだよ」ということを、大人たちに伝えていくことは、25万人の子どもたちに出会ってきたエンパワメントかながわだからこそ、やるべきことだと思っています。

江森:私もキャリア教育などでたくさんの子どもと出会いますが、小学生ぐらいだと発達段階的にまだ抽象概念が理解できないから、思考や発言が具体的なんですよね。大人みたいに曖昧なことを言って逃げたりしない、というかできない。そのことがかえって大きな力を生むというのは実感していますね。

阿部:CAPプログラムの中で基本的人権について考えてもらうのですが、子どもからはいろいろな意見がどんどん出てきますが、大人はすぐに固まってしまいますね(笑)。でもそのくせ大人って、子どもだからできない、障がいがあるからできない、できないできない、だからダメというメッセージを子どもに伝えてしまいがちです。

 私たちは人権という観点から、人間は親子であっても先生と生徒であっても、すべて対等なんだということを伝えているのですが、実際には「親の言うことをきけ」「先生の言うことをきけ」と言ってしまっていますよね。ある中学校で体育館に生徒に集まってもらって、私たちが丁寧に丁寧に人間は対等なんだから、お互いを尊重しようねという話をしてすごく盛り上がったんですが、終わったら先生が出てきて「お前らなにやってんだ!早く並べ!」ってやっちゃう。もう!台無しじゃない!って思います。

江森:それはつまり、子どもが「自分はできる」とか「人間は対等だ」と思うことが、暴力の防止につながっていくと考えているということですか。

阿部:私たちの会の名前の「エンパワメント」とは、〝力を引き出す〟ということです。暴力に対抗できる力を引き出すのが、私たちの仕事です。「ダメだダメだ」と言っていたのでは、力は潰されてしまいますよね。最終的には大人が子どもを守ってあげるのではなく、子どもが自分で自分の身を守るために、もともと持っている自分の力を出せる状態にしておくことが大事なんだと思います。

江森:いじめや暴力の問題が出るとすぐに「それはいかん!」と噴き上がって、とにかくあってはならないことだから「撲滅しろ!」ということになりがちですが、私はこれにとても違和感があります。人間の中の暴力性って自然のことだと思うんですよ。問題はその誰の中にもある暴力にきちんと向き合って、いかに実行しないようにするかであって、「無いことが正しい」とするところがすでに歪んでいると思います。

阿部:確かに〝禁止〟には意味がないと思いますね。神奈川県の先生の間ではデートDVに対する認識がだいぶ広がってきているのですが、デートDVだとわかると交際を「禁止する」んですよ。これはまったく意味がないのですが、結局先生も保護者もそれしか対応方法を知らないんですね。そうではなくて、困ったら誰かに助けてもらっていいよ、お互い助け合うことができるよねというメッセージを伝えていくことが大事だと思います。

江森:とかく善と悪とか、被害者と加害者とか分けたがりますけど、私たちはどっちにもなる可能性があるわけですよね。だからどっちになったとしても、社会としてしっかり受け止めて、「お互い様なんだから助け合っていこうよ」というふうにみんなが考えていくことしか、もし本気で暴力をなくそうと思うなら、それしか方法はないと思いますね。

阿部:社会のメッセージの中には「こうでなきゃダメ」「こうしちゃダメ」とダメダメが多いのですが、そのひとつに「他人に迷惑をかけちゃダメ」というのもありますよね。DVの被害者の言葉に「私は人に迷惑をかけてはいけないと言われて育ったので、こんなことを相談して迷惑をかけたくなかった」というのがとても多いんです。〝禁止〟には弊害が多いんですよね。

江森:まあ、親の立場からすると、どうしてもそうなっちゃいますけどね…

阿部:そうですよね(笑)。だからこそ私たちのような第三者の存在が必要なのです。

江森:こんなに素晴らしいCAPプログラムなのに、最近では行政予算がつかず、皆さん自ら寄付を募ってCAPを提供しているそうですね。これだけの実績があって、しかも事態はますます深刻化しているにもかかわらず、どうしてそういうことになるのでしょうか。

阿部:ひとつには行政の委託事業というのは、ずっと続くわけではなくて、通常3年程度で終わってしまうからということがあります。もっとも私たちもあまりに一気に広がったものだから、努力が足りなかったというのは反省すべきところだと思っています。でも、それにしても子どもに行政予算がつかないというのは本当に感じますね。学校のトイレに行ってみるとよくわかりますが、洗浄便座がついてないなんて普通のことで、カギがしまらないとか、いまどき「これトイレ?」と目を疑うようなトイレがたくさんあります。

江森:子どもには選挙権がないですからね。CAPはとてもいいプログラムなので、民間の寄付だけを財源にしてもある程度やっていけるとは思いますが、すべての子どもたちに平等に教育の機会を与えるという「公教育」の理念を考えたときに、CAPの代わりになるプログラムがないのであれば、民間でまかなえない分ぐらいは行政予算を投入してほしいものですね。

阿部:行政予算がつかなくなってから、皆さんに寄付をお願いしてきましたが、なかなか難しいです。「寄付」という言葉も日本の文化にはまだまだ馴染んでいないのだなと痛感しています。

江森:今後はどのような計画ですか。

阿部:いまデートDVの全国ネットワークを立ち上げていますが、この活動はいずれ独立させようと考えています。エンパワメントかながわとしては、まさにいま5ヶ年計画を策定中なのですが、地元の企業やコミュニティと子どもたちをつなげるプロジェクトを立ち上げたり、次の世代の若い担い手を育てたり、NPOとしても着実に力をつけていきたいです。

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