お母さんにも、企業にもやさしい保育園をつくってみたい

  • 2013年7月20日
  • 2020年12月26日
  • JO対談

株式会社フェアリーランド代表取締役 菊地加奈子さん

江森:専業主婦から社労士になろうというだけでも大変な決断だと思いますが、保育園まで始めてしまうというのには驚きました。

菊地:認可保育所は保護者が月に16日以上、1日4時間以上働いていることが入所の条件になっているのですが、私が社労士事務所を始めた当時、その条件を満たすことができずに、なかなか保育園に入れてもらえませんでした。

 認可外の保育所は保育料が高額なところが多くて、当時三人の子供を預けるのに月に二十万円以上もかかってしまって…。でもそうでもしないと働くことができませんでした。その経験があったので社労士の仕事が軌道に乗ってきたときに、現実的なお母さんたちの声にきめ細かく応えることができる保育園をやってみようと思いました。

江森:働き方ということも含め、女性の社会への関わり方が多様化しているという現状に、制度がついていっていないということでしょうか。

菊地:制度の古さというのは否めないと思います。認可保育所はほぼ全額の公的支援が受けられるのに対して、私たちのような認可外保育所は、行政からの助成金のようなものはまったくいただけません。

 そうなると当然認可保育所が多くなるのですが、認可保育所は国が定めた通りの保育しかできないので、融通のきかない保育園ばかりになっているというのが実情です。

江森:いま横浜では林市長キモ入りの「横浜保育室」が注目されていますが。

菊地:「フェアリーランド」は横浜市が定める基準はクリアしていますが、横浜保育室としての認定は受けていません。というのも横浜保育室も入所条件は認可保育所と同じで、言ってみれば暫定的な認可保育所のようなものなので、認定を受ければ制度に縛られて柔軟な保育ができなくなってしまうからです。今後、横浜保育室も順次認可保育所に移行していくと考えられますので、お母さんたちの多様なニーズに応える制度になっているかというと、疑問が残るところではあります。

江森:横浜市は「待機児童がゼロになった!」と胸を張っていますが、数字のマジックだという批判もあります。

菊地:お母さんたちのニーズに応えた上での待機児童ゼロかといえば、数字の操作と言われてもしかたない面はあると思います。特定の園を指定して順番を待っている人は待機児童にはカウントされませんし、実際この近くの園で二十人待ちというところもあります。そもそも今は専業主婦だけど、これから働こうと思っているお母さんとその子供は統計の対象にもなっていないわけですから、潜在的な待機児童はかなりいるのではないかと思います。これから働こうと思っているお母さんたちにとって、保育園が高い壁になっているのは確かです。

江森:なるほど、そこで菊地さんが立ち上がったわけですね。お母さんからの評判はいかがですか。

菊地:お母さんたちはすごく満足してくださっています。仕事を探すために子供を預けに来られた方が、無事に仕事も決まって働いているという方もいますし、育児に悩んで育児ノイローゼ気味だったお母さんが、子供を預けることによって自分の時間ができて気持ちが楽になったと言ってくださったり、いろいろな声をいただいています。

江森:子供を預ける理由は、仕事だけじゃないということですね。

菊地:そうですね、このあたり(横浜市都筑区)は比較的裕福な家庭が多いということもあってか、必ずしも仕事のためとは限らないようです。しかし一方で地域によっては、シングルマザーが多くて小さい子供がいても夜勤をやりたいから、二十四時間体制の保育所が求められていたり、本当に保育のニーズというのは多様なんですね。

 でも認可保育所は、お母さんがどんな仕事をしていようが、子供が少しでも熱を出したら一時間以内に迎えにいかなければならないとか、こちらの事情をほとんど汲み取っていただけない場合が多くて、私もそのことでは本当に困りました。ですから、今はできるだけお母さんの仕事、つまりお母さんが勤めている会社の事情にも配慮できるサービスを心掛けています。

江森:保育の世界にも既得権の弊害があるようですね。保育園を始めてみて、始める前とイメージが違ったとか、大変なことはありますか。

菊地:私も子育て世代の母親なので、理解はしているつもりだったのですが、実際に子育てをしているお母さんたちを雇用するのは大変だなと思っています(笑)。

 同じ母親でも、社会的な立場や家庭環境の違いなどから、仕事に対する意識が異なり、時にはぶつかるときもありますし、理解しあえなくて仕事が続かなかった方もいます。お母さんたちを雇用するというのは相当な覚悟が必要だなと感じています。

江森:労務管理という意味では、専門分野の社労士のノウハウが活かせますね。

菊地:そうなんです。社労士と保育園て、一見何の関係もないようですけど、実は子育て世代のお母さんを雇用するという意味においては、保育園での労務管理に社労士の知識はすごく役に立ちます。

女性が活躍できる社会を作ることは、産業界にとってのイノベーションなのです。

江森:本当に女性が活躍できる社会を創っていくことは、日本の産業界にとってはある種のイノベーションだと私は思っているのですが、そのために企業ができることはどんなことがありますか。

菊地:それはなんといっても事業所内保育を進めることだと思います。企業のニーズにあわせて保育のスタイルをカスタマイズしていかないと、お母さんにとっても働きづらいし、企業にとってもお母さんたちの存在が重荷になってしまう。保育園の都合ではなく、企業にあわせた保育所を作っていくことで、お母さんたちが大きな戦力として活躍できるようになると思うんですね。

江森:しかしそうはいっても日本では九九・七%が中小企業なわけで、独自で保育所を運営するのはちょっと現実的でないような気がしますが…

菊地:そのような中小企業のために、近くの何社かが集まって保育所を運営するための助成金制度があります。例えば、どこかの会社に空いている土地があるとか、商店街に空き店舗があるとか、廃校になった小学校があるとか、そういう場所があれば、そこを共同で借りて保育所にすることができます。もちろんそこを利用する従業員にも相応の負担をしてもらって、私たちのような保育所の運営会社に運営を委託していただければ、それほど難しいことではありません。

 それでも実際に赤字がでないように運営していくためには、色々と工夫も必要だと思いますので、たとえば近所のお母さんたちやおばあちゃん世代の人たちにボランティアでお手伝いしていただくような仕組みを考えていくことも、今後必要になってくるかなと思っています。

江森:晩婚化で子育てと介護が同時にやってくるなんていうことも珍しくなくなってきていますね。

菊地:私の知り合いにも、今まさに子育てと介護を両方やっているという人がいますが、そういう時代だからこそ、私は学生さんに、学生のうちから自分が子育てをしながら働くというイメージをもっと持って欲しいと思っているのです。

 どうしても若いうちは自分が働くということしか考えていないのですが、結婚して子供を産んで、仕事との両立が苦しくなるときが必ずくるので、学生のうちから将来のライフプランを見据えた上で、じゃあ、どんな仕事に就いたらいいのかということを考えてみてもいいのかなと。主婦と学生の対話の場づくりなんかもやってみたいですね。

江森:いいですね。ウチにもインターンの女子学生が良く来るので、今度こちらに連れてきますよ(笑)。まさにやりたいこと盛りだくさんといった感じですが、今後はどのような計画ですか。

菊地:まずはここで保育所運営のノウハウを確立して、先ほどお話ししたような事業所内保育所や、地域のニーズにあった保育所を作り上げていきたいなと思っています。企業とお母さんの立場に立った保育を実現していきたいですね。お母さんの中にも、子育て中は子育てに重点をおいて、仕事は少し控えめにしたいという人もいれば、妊娠中や子育て中であってもバリバリ仕事をやりたいという人もいるので、誰でも一律に扱うのではなく、企業側もとことんやりたい人には、あまり気を使いすぎることなく、通常通りにやらさせてあげていいと思います。

 また、すでに頑張っている女性もたくさんいるのですが、現実の壁を目の当たりにして諦めてしまっている女性もたくさんいると思うので、お母さん向けの講座なども企画していきたいなと思っています。

江森:今日のお話を伺って、企業と保育が結びつくことで、女性の働く環境はもっと変わっていくのではないかと感じました。お母さんと企業と保育の懸け橋として、これからも大いにご活躍ください。

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